【梶原加奈子の想いごと】
これからも一歩ずつ未来へ

ひとりひとりの力は微力だけど無力じゃない。 知ることの一歩を大切にしたい。

早いもので今年も残りわずかとなりました。街を眺めていると混んでいる場所が増えてきましたね。日本産地の工場さんも、今年の後半は発注がいっぱいで忙しいという声が次々と上がっています。円安の影響もあり、日本産回帰がどのぐらい続くのか揺れ動いている狭間ではないかと思います。

〈LIVERAL〉を作っている株式会社アイディールカンパニーの工場内
管楽器のカバーやカーシートの縫製を背景としたハイクオリティな縫製レベルを担う技術者たち

私は12月上旬に2年半ぶりにパリとミラノに行ってきました。欧州ハイメゾンにジャパンテキスタイルをプレゼンするため、現場では様々なブランドを訪問し、馴染みのデザイナー達とも再会してきました。リモートやメールのやり取りは継続していましたが、リアルにお会いして喜びや楽しさを共有する実感があり、何より、今考えていることを伝え合い、次の企画に向けて発想が湧き上がるような共感を感じることができました。

一方で、マーケットをリサーチすると、世界の技術が進化していることに焦りを感じます。 2年半前にはそれほど気にならなかったポルトガル、トルコ産地の成長。エネルギーを削減するため、欧州ブランドは近い地域での生産を増やしている流れが強まっています。距離や価格で有利な場所が栄えていくのは自然なことでもあります。

メイドインジャパンの強みと弱み

では、どんな素材が、製品が、日本に求められるのか。 テキスタイルのグローバル傾向を通して思いますが、簡単に言うと、リプロできないもの。他に作れない技術や付加価値の表現が出来ているかどうかが重要な点になります。挑戦しても真似できない技術力や特許、加えてブランド力があるかどうかは、これから製造業の生き残りをかけて大事なポイントです。

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〈F/ACSION〉 レインコート MATSU このブランドのために開発された3層構造の極薄メンブレン生地を使用したレインコート「MATSU」。
超軽量で撥水性と透湿性に優れ、常に衣服内を快適な状態に保ちます。

〈LOOP&SPOOL〉 FOL 綿毛布シングル 毛布の街・大阪府泉大津市の起毛工場で作られた究極の膨らみ感と柔らかさがあるコットン毛布。
植物由来の抗菌剤で仕上げで抗菌防臭効果もあり、自宅の洗濯機で洗えます。

〈aiile〉 マルチWAYピンタックワンピース 1本1本のピンタックや細かな箇所まで丁寧に縫われているaiileのワンピース。
段着にもお仕事にも、シンプルながら華やぐデザインへのこだわりを感じます。

〈Muto〉Ramie500ストール 特殊な極細のラミー糸を織りこなし、空気を纏うような超軽量ストール。
ゆっくりと織りあげられた布の柔らかな手触りが心地よいです。 ボリュームがあっても軽量なので、冬でも首周りを温めるコートインやルームストールとしても活躍します。

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ハイテクな機械やスーパーテクノロジーは成長に勢いがある国が強化していきます。日本は少子高齢化の問題がこれから益々進み、国内のキャパは縮小していく課題を抱えています。その上、サステナブル化もデジタル化も遅れている。強みはなんだろうと考えると、効率とは反対に向かうような、難しい生産や手間暇を掛けた工程にヒントがあると思います。古い機械を直しながら時間が逆に進んでいくように、昔に戻る感覚はちょうど今のラグジュアリーが求める希少性や古着の価値と合っています。 そこに日本人のサービス精神を掛け合わせた機能性や利便性の発想や量産性に向けて技術の工夫が融合される。従来の気質が活躍しやすいプリミテフィブイノベーション型開発から、まだまだチャンスが沢山生まれると思います。

富士吉田産地 武藤株式会社のションヘル織機のヨコ糸

CRAHUGに参加している工場さんも、回帰生産の対応に追われて来年も忙しさが続くと思います。でも、多くの人たちは油断することなく未来のためにオンリーワンの開発を考えているように思います。

本島最南端の大隅半島にある鹿児島県肝属郡南大隅町にある〈ボタニカルファクトリー〉の工場内階段
旧「登尾小学校」の一部を製造工場としてリノベーションし、「地産化化粧品」を生産している。

これからも一歩ずつ未来へ

輸出やインバウンド対策はこれからの日本にとって必要なことだと思いますが、一方でエネルギー削減に向けた流れをみると、地産地消は未来の暮らしに影響していくと思います。衣食住、暮らす地域で作れるものに目を向け、コミュニテイの中で応援していく人たちが増えるだろうと思います。

「一人ひとりの力は微力だけど無力じゃない」共感が重なり合っていくことで突破口は必ず開けていくと信じる。という言葉を、ある経営者から伺いました。とても励みになる言霊があると思いました。10年後も100年後も日本の製造業が途絶えていかないように、CRAHUGも、もっともっと地域のことを知り、未来づくりへの意識を広げていけるように「ひと、もの、こと」を語っていきたいと思います。

みなさま、よいお年をお迎えください。

Text & Photo:
梶原加奈子

CRAHUGのクリエイティブディレクター。大好きなテキスタイルに関われる日々に感謝。北海道の自然がクリエーションの源。

Date: 2022.12.29

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