糸にも、商品にも、自分にも、正直に。
武藤株式会社

このブランドの商品をはじめて手に取った時、そのモノの極限まで突き詰められた繊細さと、それを翻すような暖かさと包容力、その両極端にとても驚いたのを覚えています。極細の天然繊維の糸をふんだんに使用した〈muto〉のストール。その背景には時代の流れに逆行してまでも大切している信念がありました。今回はそんな武藤株式会社より、ブランドの運営を担当する武藤亘亮さんにお話を伺いました。様々な過程を経て、困難を乗り越え、あなたの首元に。

写真は武藤亘助さん。何から何まで親切に教えてくれました

ー工場の創業は何年でしょうか?

【武藤】1975年になります。自分の祖父の代から始まりました。当初はやぐざぶという寝具を製造することを生業としていました。

ーやぐざぶ...?初めて聞きました。どんな字ですか?

【武藤】夜具座部と書きます。具体的にはベッドや枕のカバー、座布団などのことです。昔なので、シルク100%の質の良いものを製造していたそうです。

ーへぇ、そうなんですね!今作っているものとのつながりはありますか?

【武藤】シルクというところでは共通点があります。作っているものは異なりますが、素材という面ではつながっている部分がありますね。

ーこの地域(山梨県南都留群)特有の特徴などありますか?

【武藤】先染めの産地として有名です。またもう一つ、長繊維であるフィラメント糸の扱いが得意な産地としても有名です。

ほかの産地と大きく違うのは扱う素材に偏りがないことだと思います。尾州だったらウール、遠州だったら綿、といったように普通だったら産地ごとに得意な素材が決まっていますよね。特定の素材を使ってどのように製品にしていくかが、大切になる。それがこの産地ではないので「沢山の素材の、沢山の製品が見られる」そんな産地だと思います。

ーご兄弟でモノづくりをしていると伺いました。いま工場では何名ほど働かれているのですか?

【武藤】家族も含めて合計で9人です。僕が弟で、兄も一緒にモノづくりをしています。兄は生産管理をしていて、主にOEMの方の仕事の担当です。国内の有名ブランドとのお取組みも多々あり、その窓口として奮闘しています。その一方、僕が自社ブランドの企画から生産まで担当しています。

ー一緒にモノづくりをしたりするんですか?

【武藤】もちろんです。二人とも職人でもあるので、織機も使えますし。今日は取材用にきれいな恰好をしてきましたが、普段は油まみれの汚い格好をして二人で働いてますよ(笑)

ーそんな亘亮さんの担当する武藤株式会社の自社ブランドである〈muto〉では、どのような原料を使って商品が出来ていますか?

【武藤】メインとしている素材はシルクカシミアという特別な糸になります。この糸は弊社と紡績会社が共同開発したオリジナルのもので、1本の糸にシルクとカシミアが混じっている上質な素材になります。シルクとカシミアの割合、糸の撚り数(ねじる回数)なども細かく指定して作ったもので、うちだけでしか扱いがないような特別な糸ですね。

ーシルクカシミアの糸の特徴を教えてください。

【武藤】簡単に言うとシルクとカシミアの両方のいいとこどりといった感じです。シルクの光沢感、なめらかさも残りつつ、カシミアのふんわり感や暖かさも持ち合わせている。カシミア100%だともこもこし過ぎて、シルク100%だとテロテロし過ぎて、敬遠する人がいると思います。そういうニーズの間をとったものがこの糸で、これが一番のおすすめです。

ーそんなシルクカシミアの糸を扱うのは、とても難しいと伺いました。製品にするまでにどのような難しさがあるのですか?

【武藤】シルクカシミアはほかの糸と比べても、比較にならないくらいとても細いんです。だから織りあげるととても軽くて、ふんわりとした質感になるのです。ただ極細のため、糸そのままだと整経も織ることも出来ず、到底生地にも出来ません。そのため弊社ではダブルカバーという技術を活用しています。

ーダブルカバーとは...!詳しく教えてください!

【武藤】極細の糸のままだと織ることが出来ないので、その糸にギブスをするようなイメージです。極細の芯糸に水溶性糸をらせん上に絡めていきます。芯糸の周りにぐるぐる巻きつける感じです。この工程のことをダブルカバーと言って、芯糸単体では到底織ることが出来ないものも、カバーリングすることで織ることが可能になるのです。強度がぐっとまして、強い糸になります。織り込んだ最後に整理加工と言って、お湯につけることで、芯糸の周りに絡みつけた水溶性糸は溶け、芯糸だけが残り、生地が出来るのです。

ー初めて知りました!そのほか武藤さんならではの特徴的なモノづくりってありますか?

【武藤】シャトル織機といういわゆる低速織機を使っているところかな。本当にがっしゃん、がっしゃん、ゆっくり織るクラシックな織機を使っています。ほかの企業さんで使われているような現代的な高速織機とは生産効率が全く違いますね。

ーその低速織機をあえて使う理由は何ですか?

【武藤】天然繊維の極細を扱っているため。です。高速の織機だとやはり糸に負担がかかってしまい、糸が切れて織れない状況になります。ゆったりな織機を活用することで、極細の糸も織ることが出来るし、商品になった時に、ふんわり織り上がり、風合いが優しくなります。この点がこのクラシックな織機を使う一番の理由ですね。

シャトル織機。確かにほかの織機と比べても格段に織るスピードが遅い。

ー商品のためにあえてクラシックを選択する、信念を感じますね。では、最後に。亘亮さんのモノづくりのルールを教えてください。

【武藤】社長の言葉であり、会社の経営理念でもあるのですが、「糸正直」ですかね。”良い商品は素材を偽らない。良い素材を使えば良い商品が出来る”そういった意味の言葉です。海外製のストールで柔軟剤を沢山使って柔らかく仕上げているような商品も沢山あります。一概にそれが悪いことだとは思いませんが、弊社では天然素材の持つ本来の風合いを大切にモノづくりをしている。そんな想いを会社としても、個人としても強く持っています。社長(亘亮さんのお父様)の言葉なんで素直に受け入れられないんですけどね(笑)。ただ本当に言葉の通りだと思います。この気持ちを大切にモノづくりを続けていきたいです。

Text & Photo:
宮﨑涼司

人一倍、服が好きなCRAHUGのジャーナル担当。給料のほとんどをファッションへ投資する。好きなメディアは「AWW MAGAZINE」と「NEUT MAGAZINE」。

Date: 2021.11.29

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