【対談】
NEW ENERGY プロデューサー石塚杏梨
二人にとっての、「つながり」とは 前編

展示会、マーケット、メディアを内包した新時代の複合型イベントである「NEW ENERGY(ニューエナジー)」。従来の展示会のイメージからはかけ離れた、未来を予感させてくれる新進気鋭のクリエイションの祭典です。そんなNEW ENERGYのプロデューサーを務めるのが、石塚杏梨さん。かつて運営していた展示会rooms(ルームス)での経験を活かし、世界中の素晴らしい作り手とバイヤー、そしてユーザーであるお客様を繋ぐ新たな場所として、2022年から同イベントを主催しています。そんな石塚さんとCRAHUGのディレクターを務める梶原さんとの対談の模様を記事にしました。

モノづくりを通して人と人が繋がる場所を提供する両者にとっての”つながり”とは何か。これからどのような”つながり”を期待するのか。前編と後編の2部に分けてお届けします。前編では、石塚さんご自身のこと、NEW ENERGY発足の流れ、梶原さんとの出会いについて語ってもらいます。


左:NEW ENERGYプロデューサー 石塚杏梨さん
右:CRAHUGディレクター 梶原加奈子さん

勝手な使命感を感じている。

ーまずは石塚さんの自己紹介からお願い致します。

【石塚】私はアメリカの学校を出て、ファッションの仕事をしたいと思い、新卒でアッシュ・ペー・フランスに入社しました。入社してすぐにバイヤーのアシスタントとして働くことになり、海外の物を仕入れて販売する事、貿易の流れや、MDは一通り経験しました。当時英国人バイヤーが買い付けていた商品は一つ一つはものすごくクリエイティブだったのですが、様々な要因により店舗の継続が難しく、一年で閉店してしまいました。その時にどうしようか考えたら、日本のモノづくりを発信できる仕事をしたいなと漠然と思い。外に出たからこそ分かる日本の魅力を多くの人に伝えることが出来たらという想いから、当時の社長に企画書を提案して配属されたのがroomsでした。

【梶原】roomsに配属されてからは、どのような仕事をされていたのですか?

【石塚】主に出展ブランドや関係者・来場者対応などの運営業務を行っていました。当時、展示会ビジネスは全盛期で毎日2,3ブランドから出たいとオファーをいただくほどで...。有難いことに半年で相当数の出展オファーをもらうような状況でした。そのような業務をこなしながら、海外ブランドの誘致なども担当していました。

【梶原】こういう話をしたことがなかったので、初めて知ったことばかりです。石塚さんは海外のカルチャーを見てきたからこそ、日本のモノづくりに対して気持ちが宿っていったんですか?

【石塚】そうですね。たまに梶原さんと話すと出てくる「勝手な使命感」ってやつです(笑)。日本から海外に飛び出して初めて、母国のために何かしたいという気持ちが自然に生まれたような気がします。

【梶原】わかります。それが私の中ですごい腑に落ちた感じがしていて。勝手な使命感ってどこから湧いてくるんだろうって考えたら、海外に出てから芽生える愛国心だなと思って。同じ気持ちを石塚さんも持たれていたことにすごく嬉しく思いました。

【石塚】多分それがルーツなんだと思います。海外に行くと日本人として恥ずかしい行動は出来ない、みたいな変な使命感もありました(笑)。

【梶原】わかります。思い込みが激しいと言われたら、そうかもしれませんが(笑)。海外に出たからこそ気付く日本の良さですよね。

地場産業プロジェクトからNEW ENERGYの発足まで

【石塚】展示会運営と海外営業を続けていたときに、東日本大震災が起きました。実は震災以前から地場産業との連携に関する相談はいくつかあったのですが、なかなか形に出来なかったところでした。そんな中、被災地の生産者の方々と交流することで、東北地方だけではなく全国的に抱える伝統工芸や地場産業の苦境を知ることとなりました。直ぐにチームの仲間と共に日本のために何が出来るだろうと考えて、地場産業の活性化を目的とした『rooms 地場産プロジェクト』が誕生しました。まだ“地方創生”という言葉が生まれる前のことです。そこから日本のクリエイティブな商品を集めて『rooms Ji-Ba』というお店をヒカリエに作ることにつながっていきます。(※rooms Ji-Baは既に契約満了で閉店)

ー日本のいい物をセレクトするという観点でCRAHUGと近しいものを感じますが、どのような視点で商品を選ばれていたのですか?

【石塚】地場産業にもともと興味のなかった層をターゲットにして商品をセレクトしようという明確な観点がありました。もともとそういうものが好きな層を狙っても市場は広がっていきません。地場産業の活性化につなげるために、新しい市場を作ることを目的として商品を選別していきました。ファッションが好きなお客様に、洋服を選ぶような感覚で日本の素敵なプロダクトを手に取っていただきたい、そういうことを意識していました。

【梶原】商品はもちろんのこと、”見せ方”というところに気を遣っていた?

【石塚】まさにその通りです。見せ方の工夫しかしてなくて。私は梶原さんと違ってデザイナーではないので、商品のデザインにこうしてくださいとアドバイスするのはお門違いだと思っていました。ですので、売り場で商品の魅力が最大限伝わるように展示方法を工夫するとか、なるべくウンチク抜きで商品の良さが伝わる接客トークの開発だとか、そういうことに注力していました。どんな売り場だと素敵だと思ってもらえるかをずっと考えていましたね。

ー今までroomsの話をお伺いしてきましたが、それがどのようにNEW ENERGYの発足につながっていくのでしょうか。

【石塚】roomsは長年情熱を注いだ大好きな場所でしたが、大きくなるにつれて、もっと軽やかに時代に応じた形で作り手とお客様が有機的につながる場所を創出したいという気持ちが湧いていました。コロナであらゆることがストップしたお陰でゼロベースで物事を考える時間が増え、ある種ニュートラルな状態となりました。勤務20年を節目にアッシュ・ペー・フランスからの独立を決意し、その後よきパートナーとなってくれる会社や力をかしてくれる人々が現れたことも重なって、タッグを組んで立ち上げることになったのがNEW ENERGYです。

【梶原】roomsとNEW ENERGYの違いってありますか?

【石塚】根本は変わらないと思いますが、イベントを開催することが目的にはなっていません。それはあくまでもただ一つの手段であり、わたしたちには別に達成したい目標があります。そのために、知らなかったものや考え方や、クリエイションと出会うことの出来る場を提供したいと思っています。

【梶原】私は残念ながら前回(2021年2月開催)行けなかったんです。ただ写真とか情報では拝見していて、新しいものが始まったワクワク感と高揚感は感じました。蔓延防止期間中にも関わらず、6,500名ほどの方が来られたと伺いました。どのような反響がございましたか?

【石塚】「表現したいことが存分に出来て良かったね」と言われました。自由で楽しい大人の文化祭みたいだねとか(笑)。とにかく参加してくださった方には楽しんでいただけたみたいで、素直にやってよかったなと思いましたね。NEW ENERGYをきっかけにビジネスが飛躍したデザイナーも多くいて、嬉しい限りです。

日本で応援してくれる貴重な存在

ーお二人の出会いについて教えてください。

【石塚】はじめてお会いしたのは〈POLS〉を通じてですかね?

【梶原】多分...そうだと思います(笑)。

【石塚】梶原さんが以前ブランドのディレクターを務めていた〈gredecana(グリデカナ)〉のころから、私は一方的には知っていたんですが(笑)。すごいものを作る人がいるなと、当時から思っていました。

【梶原】ありがとうございます!嬉しいです!

【石塚】そんな印象がありながら、偶然展示会で見かけた〈POLS〉のデザイナーも梶原さんが担当していらっしゃって。あ、つながった!と、その時思ったのを覚えています(笑)。

ー初めて会ったとき、お互いどんな印象だったんですか?

【梶原】変な言い方になってしまいますが、私の作ったものを評価してくれる貴重な存在だなと思いました。私が作ったものは、日本ではあんまり評価されないんですよね...(笑)。ついついやりすぎて飛び出してしまうところがあって。そんな中、石塚さんは作ったものを前向きに評価してくれて、応援してくれました。素直にすごく嬉しかったですし、心強かったです。

【石塚】実際に〈POLS〉持ってますからね(笑)。

【梶原】本当ですか!ありがとうございます!

【石塚】梶原さんのように、繊細で美しい感性とその感性が宿る商品がより多くの人々に評価されて、皆さんの暮らしの中に取り入れてもらえることを目指しています。素晴らしいクリエイターとバイヤー、そしてお客様が出会える場としてNEW ENERGYは存在しています。もっと多くのお客様に足を運んでもらい、多様な感性に触れてそれらを認めてほしいと思っています。

【梶原】そうだと思います。海外は多様性を認めてくれますからね。どんなクリエイションを見ても驚かれず、きちんと評価してくれる懐の深さは海外特有かもしれません。

【石塚】ほんとその通りだと思います。みんな違って当たり前だし、きっとナチュラルに多様性を持ってますよね。流行りではなく、個人の価値観でモノを評価している。少しおこがましいかもしれませんが、日本人が本来持ち合わせている感性をより一層高めていくっていう事もNEW ENERGYが目指すべきポイントかもしれないですね。

前編は以上となります。後編ではバイヤー目線から見た日本のモノづくりについて、両プロジェクトの今後の展望について、深堀していきます。ぜひ。

Text & Photo:
宮﨑涼司

人一倍、服が好きなCRAHUGのジャーナル担当。給料のほとんどをファッションへ投資する。好きなメディアは「AWW MAGAZINE」と「NEUT MAGAZINE」。

Date: 2022.06.13

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