【対談】エシカルファッションプランナー 鎌田安里紗
エシカルな選択って何だろう? 前編

「倫理的」を意味するエシカルという言葉。以前ではコーヒーやチョコレートなどフェアトレードの実現を目的として、食品の分野で語られることの多かった話題ですが、最近ではファッションの文脈においても使用されることが多くなりました。こうした潮流の背景には、SDGsやサステナブルに対する関心の高まりとアパレル産業の暗い生産背景が明るみになったことによる、消費行動の変化が起因していると思います。

大きな枠組みで語られることの多いエシカルという概念を、自分事として考え、行動に移すために。今回の対談ではエシカルファッションプランナーという唯一無二の肩書を持った鎌田安里紗さんを迎え、梶原さんと共に「エシカルな選択」について語っていただきました。前編では、鎌田さんご自身の事、現在の活動内容を伺っています。

左:CRAHUGディレクター 梶原加奈子さん
右:エシカルファッションプランナー 鎌田安里紗さん

目指しているものは近いもの同士

ー2人がきちんとお話しすることは今日が初めてという事で。以前から交流はあったのですか?

【鎌田】直接お会いしたのは最近のことになります。最初にお会いしたのはセミナーの会場だったかと思います。

【梶原】そうですね。鎌田さんが司会として進めていたサステナブルセミナーを見にいき、ご挨拶をしました。サステナブル関連でずっと近くにいた印象はあるのですが、なかなかゆっくりお話する機会がなく...改めてきちんとお話するのは今日が初めてになりますね。

【鎌田】梶原さんのことは以前からもちろん存じ上げていました。エシカルやサステナビリティに関する議論は、どうしても概念的になりがちですが、梶原さんは現場を大切にして、その現状をきちんと把握された上で新たな提案をされているという印象を抱いていました。産業の内外で重要な橋渡しを担っている実践的な方だなというイメージでしたね。

【梶原】ありがとうございます。私も同様に鎌田さんのことを知っていて、地域・産業活性や、クリエイター育成、など幅広い活動をされていることを知っていました。サステナブルだけではない、包括的にエシカルな活動をされていて、自分の動きとの親和性を勝手に感じていました。直接的にやっていることは異なるけど、目指していることは近しいように思っていました。

生産過程を知ることが抜け落ちているもったいなさ

ー鎌田さんがエシカルファッションに興味を持ち始めたきっかけについて教えてください。

【鎌田】高校1年生の時にSHIBUYA 109でショップ店員のアルバイトを始めました。ちょうどH&Mの第1号店が日本にできるタイミングで、ファストファッションが広がり始めている時期でした。雑誌でモデルの仕事もしながら、読者やお客様に洋服を届けることに一生懸命になっていました。

そんな中で、「このブランドが好き」とお小遣いやアルバイトのお給料を貯めて思い切って服を買いに来るお客様よりも、「似てるデザインだったらどこのブランドでもできるだけ安いところで」という買い物の仕方が増えたように感じて、違和感を抱き始めたのが、きっかけかもしれません。自分の出ていた雑誌をはじめ、ファッション誌でも「コスパ」を全面に押し出した企画が多く...もちろん、価格が安いことは1つの価値ですが、その点だけが強くフォーカスされることに対しては違和感を感じました。自分が販売していた洋服の事も全く知らず、作る過程も気になり始め、つてをたどって工場に足を運ぶようになっていったら、すごく面白くて...。

【梶原】自分で工場に行かれたの、すごいですね!それは何歳ごろだったんですか?

【鎌田】17,18歳の頃です。最初はカンボジアやバングラディシュの海外の工場にご縁を頂き足を運んでいて、日本の工場は21歳ごろで初めて訪ねました。

どの工場に行っても1つ1つの工程に沢山の知恵が詰まっていて、職人さんが工夫を重ねられていて、とても面白くそのことを知らずに洋服を着ていたことがもったいないと思うようになりました。ファッションの楽しみ方はコーディネートを組むことだけだと思っていましたが、生産の過程を知って着ることで別の楽しみがあるのだとそこで知りました。生産過程を知ることの面白さが抜け落ちたまま販売されていることに対して惜しいと思っていました。同時に、生産過程には自然環境への影響や、働く人の労働環境に関する問題など、様々な課題があることも知りました。

【梶原】工場に行く事って勇気いりますよね。そう簡単に出来る事じゃないですよ。よく学生さんたちからどうしたら工場を訪問することが出来るのかと質問を受けることがあります。日中は忙しいのでメールや電話も通じない場合があり、ちょっと連絡しにくいイメージもあるかと思います。

【鎌田】お仕事をご一緒するファッションブランドがあれば、できれば工場に行きたいという気持ちを常に伝えていました。私は自身のブランドを運営しているわけではないので、工場を訪ねても発注に繋がるわけではないので、それにも関わらず工場さんのお時間を頂くことにはいつも申し訳なさを感じてしまいます…。

【梶原】工場さんはきっと喜ばれていると思いますよ。自分たちのモノづくりに対する情熱や努力が、どのくらい消費者に伝わっているか、実感したいと常日頃言っていますからね。鎌田さんのように、想いのある方の訪問は嬉しいはずです。


ーエシカルファッションプランナーという肩書で活動し始めたのは、いつごろからだったのですか?

【鎌田】高校生の時からメディアには出ていたので、当時からモデルという肩書を使用していましたが、2012年くらいからエシカル関連の講演の依頼もいただくようになり、モデルだと肩書が不相応だなと感じるようになりました。私は洋服を作ってはいないので、その絶妙な立ち位置を表す言葉として、エシカルファッションプランナーという言葉を採用しました。それが2014年くらいだったかと思います。

【梶原】当時の反応はどうだったのですか?

【鎌田】当時は今ほど関心も高くなかったので、「何それ?」とか「偉いね」と言われることが多かったですね。産業のメインストリームではなく、オプションで“良いこと”をしている人たちと括られている印象ではありました。でも今ではエシカルやサステナビリティについて取り組みを進めていないとビジネスをすることすら許されなくなってきているような空気感があります。通行許可証なんて言われ方もしますが、ビジネスをする上で、前提となる考え方になってきているということですよね。

【梶原】確かに当時はまだ関心が低かったように感じますね。エシカルやサステナブルの代わりにエコという言葉が使われていたかと思います。
ーちなみに2人はエシカルとサステナブルという言葉を意図を持って使い分けしていますか?

【鎌田】私はほぼ一緒だと思っています。社会的なイメージで言うと、サステナブル=環境と認識されているかと思いますが、本当は複数の軸を持った持続可能性という意味ですよね。ただ、サステナブル=環境だと受け取られるだろうという認識は持っています。

【梶原】言葉そのものの意味としてエシカルは「倫理的」、サステナブルは「持続可能性」という意味を指します。私個人的な意見を言うとエシカルはマインドで、サステナブルは行動を伴うものなのだと思っています。時に最近はカーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーに関わることで具体的に○○を節約しましたとか、○○を達成しましたとか、実際の行動に伴うことをサステナブルと表現し、心身の健全な幸福感を平等に考え、より良い社会のために貢献したいという想いを持ってることがエシカルなんだと思っています。

【鎌田】納得感がありますね。どちらの言葉に対しても、明確な定義がある訳ではないし、正しい1つの答えがあるわけではないですからね。ただこういう言葉があるという事には、その裏側には問題があって、その問題を改善していくための、問いかけという役割があるんだと思っています。


後編は10/25(火)公開予定です。後編では、日本のモノづくりについて、今日から出来るエシカルな選択について伺っています。ぜひお楽しみに。

Text & Photo:
宮﨑涼司

人一倍、服が好きなCRAHUGのジャーナル担当。給料のほとんどをファッションへ投資する。好きなメディアは「AWW MAGAZINE」と「NEUT MAGAZINE」。

Date: 2022.10.18

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