【対談】エシカルファッションプランナー 鎌田安里紗
エシカルな選択って何だろう? 後編

「倫理的」を意味するエシカルという言葉。以前ではコーヒーやチョコレートなどフェアトレードの実現を目的として、食品の分野で語られることの多かった話題ですが、最近ではファッションの文脈においても使用されることが多くなりました。こうした潮流の背景には、SDGsやサステナブルに対する関心の高まりとアパレル産業の暗い生産背景が明るみになったことによる、消費者の消費行動の変化が起因していると思います。

大きな枠組みで語られることの多いエシカルという概念を、自分事として考え、行動に移すために。今回の対談ではエシカルファッションプランナーという唯一無二の肩書を持った鎌田安里紗さんを迎え、梶原さんと共に「エシカルな選択」について語っていただきました。後編では、日本のモノづくりから今日から出来るエシカルな選択について伺っています。最後には鎌田さんに着用いただいた商品の紹介もありますので、ぜひ最後まで。

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職人の手の延長としての機械

ーここからは日本のモノづくりについて伺っていければと思いますが、まず初めに。鎌田さんはCRAHUGについてご存知でしたか?

【鎌田】梶原さんを通じて知りました。サイトの構成も含めて、作り手・工場ファーストだと強く感じましたね。まずは工場や作り手の紹介があって、そこから商品に紐づいていく導線に、CRAHUGというプロジェクトの強い思想を感じました。作る過程や、工場の事、など商品の新しい見方を提供してくれて、そういう出会いの入り口を提供してくれるCRAHUGは貴重な存在だなと思っています。

【梶原】嬉しいですね。もっとモノづくりの背景を紹介していかないといけないなと思いました(笑)丁寧に時間をかけて、間口を広げていけたらいいですね。


ー鎌田さんは国内外問わず、様々なモノづくりの現場をご覧になっているとの事で、日本のモノづくりについて、どのような印象をお持ちですか?

【鎌田】日本で最初に行ったのは、デニム工場だったかと思うのですが、必要な機能を備えた機械を作るところから職人さんが行っていて、機械と協働してモノづくりをしているのを見て、面白いなと思ったのを覚えています。バングラデシュやネパールで見ていた手仕事中心でのものづくりとも違う、また精密な機械が立ち並ぶ巨大工場とも違う、職人さんと機械の共同作業のようなものづくりにワクワクしました。

【梶原】すごいところに目を付けましたね(笑)でも鎌田さんの仰る通りで、世界的に見ても日本の強みって機械をいじれるところにあるんですよ。古いものとハイテクなものを掛け合わせながら、オリジナルの機械を作れるのは、日本だけと言っても過言ではないと思っています。

【鎌田】つい先日も京都の工場に伺った際に、その工場オリジナルの機械を目の当たりにして...そういった機会があるからこそ、オリジナルな商品を作り上げることが出来るし、誰にも真似できない優位性に繋がるわけですよね。職人さんは機械のサポートではなく、職人さんの手の一部として機械が存在しているようなイメージを持ちました。まるで一体化しているかのように連動して動いているさまを見て感動しましたね。

今日から出来るエシカルな選択

ー先ほどお話にもあった通行許可書というワード。多くの文脈で語られるようになった「エシカル」や「SDGs」という言葉について、どのように考えていますか?

【鎌田】まず、話題に上ることが増えている事自体は良いことだと思っています。例え本質的なアクションがまだ生まれていないとしても、いきなりグリーンウォッシュだと、批判しても何も進まないので。ただ、ネクストステップとして、エシカルやサステナビリティ、SDGsの名の下に行われているアクションが、どのようなインパクトを与えているのかを、しっかりと見極めていく必要がありますよね。「やっていること」だけでなく「まだできていないこと」もオープンに語られる必要があると思います。

ただ複数の項目が多様に絡み合って構成されている業界なので、川上から川下まですべてを把握して判断することは容易ではないと思います。一般の生活者も「この取り組みがどんな結果に繋がっているのかな?」と考えることは重要ですが、込み入って分かりにくい部分もあると思うので、NGOや調査期間が適切な情報を発信し、一般の生活者と一緒に改善するべきポイントを探りながら、修正を積み重ねていくしかないと思っています。

【梶原】鎌田さんの仰る通りだと思います。こういった言葉を使うと、ついつい身構えてしまう傾向にあると思っていて...もっとフランクに優しく使ってみても良いのではないかなと思っています。みんなの生活の1コマにもエシカルは潜んでいて、そんなに難しい事ではないというのを伝えていけたらと思っています。応援したり、背中をそっと押してあげる、そんな言葉としてエシカルという言葉が使われるようになればいいですよね。

【鎌田】批判されたり、制限される文脈で使われることの方が多いですもんね。いま出来ていることを雄弁に語りがちですが、出来ていないことも「いつまでに達成します」とか、公言していくことが大切だと思います。こういった議論になると、出来ていないことには触れないようにする傾向があるので、出来ていないことも含めて誠実に発信することが、これからは求められるのではないかと感じています。
ーでは最後に。今日から僕らにも出来るエシカルな選択について教えてください。

【鎌田】洋服に興味のある人だったら、今持っている洋服を大切にする事、長く着ることができるようにケアすることが大切だと思います。どうしても飽きもありますし、一人で一着の寿命をまっとうさせることは難しい部分もあると思うのですが、今は二次流通のシステムをはじめ、次の人に引き継ぐ手段も沢山あるので、できるだけ綺麗に着て、次の人に渡して、みんなで一着の寿命をまっとうさせていけばいいのかなと思います。

リセールバリューを考えてモノを買う人が増えているという情報もありますが、価値が落ちないものを丁寧に着て、それを売って引き継いでいくという行為は良い事だと考えています。売ること以外にも、友達や家族に渡すとか、捨てる以外の選択を取った場合に、相手に喜んでもらえる状態を維持してあげることが大切なんだと思います。これって、一見素朴で地味な事なんですが、実はすごく重要な事だと思っています。そしてもちろん、気に入って自分でボロボロになるまで着倒すことも素敵だと思います。

【梶原】大切なことですよね。結果としてモノに対する愛着が沸いてきますもんね。鎌田さんのインスタグラムでも、靴をリペアして履かれている投稿を拝見しました。

【鎌田】そうなんです。直して綺麗にしてもらうことも、今日から出来る選択だと思います。同じものでも直してもらった後では、見違えるように綺麗になっていて、全く違う気持ちでフレッシュに履くことが出来るので、おすすめしてます。

産地に行くデザイナーは多いかと思うのですが、最終的に洋服のたどり着く廃棄場に行くデザイナーは多くないと思います。どんな風に服が手放されるのか、それがリサイクルできるのかできないのか、循環させられない服はどうなるのか。現場に行く事は、きっと多くの気付きをもたらしてくれるはずで、それが業界の構造自体を変えることにも繋がるかもしれませんよね。消費者も、生産者も含め、売り場の前と後を知ることの出来るチャンスが増えていくことを期待しています。

あとがき

今回の対談では、鎌田さんに〈kiso〉の「テンセルカシミヤ タートルネックセーター」を着ていただきました。柔らかい色合いと肌触りが特徴的な商品を私物と合わせてモダンに着こなしていただきました。鎌田さんもその肌触りに終始夢中になってしまうほどの、心地よさ。ぜひお手に取って感じていただけたらと思います。

鎌田さんにはキナリを着用いただきました。これ以外にもカキシブなどの優しい色味があります、ぜひチェックお忘れなきよう。

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Text & Photo:
宮﨑涼司

人一倍、服が好きなCRAHUGのジャーナル担当。給料のほとんどをファッションへ投資する。好きなメディアは「AWW MAGAZINE」と「NEUT MAGAZINE」。

Date: 2022.10.25

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