艶やかな曲線で身体と心に響く
母娘2人によるジュエリー
simoe
母と娘の2人によるジュエリーブランド〈simoe (シモエ)〉。アクセサリーとの出会いを始め、ブランド立ち上げの経緯、親子での運営など、素敵なお話を母:下奥 悦子さんと娘:沙希子さんに代官山のアトリエで伺いました。
アクセサリーとの出会い
-なぜご自身でアクセサリーを作ろうと思いましたか?
【下奥 悦子さん(以下敬称略)】恵比寿にあるジュエリースクールのワークショップがきっかけでした。元々ものづくりが好きで、気軽な感じで初めてリングを作りました。今まで身に着けていたアクセサリーとは違って、その小さなリングにとても愛着が湧いて。アクセサリーの形を作る面白さにその時とても惹かれて、そのままジュエリースクールに4-5年ほど通いました。本当に好きなものを作る、というのが自分の中のアクセサリーとの出会いでした。

-実際に作ってみて感じたことなどありますか? 【下奥(悦)】自分なりに様々な素材を身につけてみたり、作っていく中で素材の特徴を知っていきました。中でも印象的だったのが、シルバーの持つ、相反するような二つの表情です。ひとつは、白っぽく落ち着いた光を放つ、どこかクールで硬質な印象。もうひとつは、仕上げ方やかたちによって現れる、とろっとした生っぽい質感。肌や造形にやわらかく馴染む、独特のやさしさを持っています。実際に手を動かしていく中で、こうした異なる質感がひとつの素材の中に共存していることに気づきました。作りながら、その奥行きや面白さを少しずつ体感していったように思います。
-ブランドとして立ち上げようと思った経緯は? 【下奥(悦)】2015年にブランドとして立ち上げました。始めは趣味として作っていたのですが、作っているうちに子育ても一段落して。その後個人のライフワークを考えた場合に、やっぱり自分の手に職を持ちたいという思いは潜在的に昔からありました。途中からだんだん購入してくださる方も増えてきて、本格的に職業としてやっていこうと考えました。これは彫金の先生の教えでもあるのですが、「技術はやっていくうちに身につくもので、まずは思い切って始めてみること」 まずは始めて、学び続けることが大切だと考えています。

〈simoe〉の特徴とものづくり
-改めて〈simoe〉の特徴はなんですか? 【下奥(悦)】「艶やかな曲線と身体と心に響くジュエリー」というキーワードをコンセプトにしています。出来上がっていくアクセサリーの形が周囲の人々や空間に寄り添っていけるのかを意識してデザインしています。アクセサリーにおいて身体とのなじみやすさは大前提ですが、ただ身につけやすいだけでなく、それが自然な曲線であること、そして時間と共に自分にとってより良いピースになっていくことも大切です。着飾るアクセサリーという要素だけではなくて、人が着けた時の感覚であるとか、身体と心に馴染んでいくということを意識しながら作っています。


-〈simoe〉のものづくりで大切にしていることは?
【下奥(悦)】私の視点だと、感覚とデザイン性どちらにも偏りすぎないように作るというのを意識しています。スケッチの中からデザインを広げていく時もあれば、言葉や感覚的な事柄からストーリーを立ててそれをデザインに起こしたらどういう形になるかということを考えます。
例えば、次のあるコレクションでは「包む」という言葉からコンセプトを発展させていきました。「包む」ということでも、自分が包まれる場合もあれば、ものを何か包むなど、様々ありますよね。「包む」というだけだと、ただ視覚的にデザインされた印象になってしまうのですが、じゃあ“包まれる”と感じるのはどんなときだろう?とイメージを広げて、たくさんのキーワードを出していきます。たとえば、“ひだまり”に当たっているときも、心地よく包まれている感覚がありますよね。もしも“ひだまり”をかたちにするとしたら、どんな造形になるだろう?──そんなふうに、連鎖的に発想を少しずつかたちにしていきます。

-実際に形にしていく工程と人気のデザインは?
【下奥(悦)】〈simoe〉には「彫刻と彫塑」という2種類の造形方法があります。まずは大きい蝋を掘り削りながら形作っていく彫刻の作り方。もう一つは蝋を溶かして足していく彫塑の作り方です。彫刻は「引き算」の技法、彫塑は「足し算」の技法とも言えます。どちらも造形しては実際に身につけ、身体への馴染み方を確認しながら、何度もかたちを見直していきます。
これまでの商品の中で、いちばん人気のあるのがツイストのデザインのConelシリーズです。ツイストといえばシンプルで定番の形ですが、〈simoe〉では膨らみや滑らかさなど、細部に個性を加えてみました。ただ削って形を整えるのではなく、まるでパン生地をこねるように、ひとつひとつ手の感覚で作っています。愛でたくなるような愛嬌があって、あたたかみのあるこのフォルムは、〈simoe〉を象徴するような1つだと思います。


空間とアクセサリーの
心地よい関係
-アクセサリーだけでなく空間の勉強もしていますね。 【下奥(悦)】ブランドを立ち上げてから、空間とものの関係性に興味を持ち始めました。どういう空間にあるとよりものが生かされるか、こういうものはどういう空間にあるとより関係性が良くなって伝わるのかということです。改めて空間とデザインについて学ぼうと決心し、2019年から渋谷の桑沢デザイン研究所に通い、空間と建築について3年間勉強しました。
-今のアトリエもその時の学びが活かされていますか? 【下奥(悦)】この代官山のアトリエは什器含めて全面リノベーションをしています。小さなアトリエですが、来ていただいた方が落ち着いて手に取って見られるような場所にしたいという思いがあり、ものと空間、人の繋がりを意識した空間づくりを大切にしました。日本の茶室のような雰囲気もあり、窓際でちょっとお茶を飲んでいただいたりと、アクセサリーを楽しみつつほっと落ち着いて帰られる方が多いです。

母と娘でブランドをやること
-母娘でブランド運営を始めたのはいつ頃ですか?
【下奥(沙)】元々手伝いはしていたのですが、本格的に母娘でブランドを運営し始めたのは2023年から。前職では、グラフィックやWEBサイトなどを手がけるクリエイティブエージェンシーでデザイナーとして働いていました。日々の仕事の中で、「なぜこれが美しいのか」「どうしてこの表現が洗練されているのか」といった視点を持ち続けることが求められ、美意識や審美眼が磨かれていったように思います。その経験は、今の〈simoe〉にも活きていると思います。

-家族でのブランド運営で良いこと、難しいことはありますか?
【下奥(沙)】良いこととしては、ざっくばらんに何でも話せること。普段見ているものとか、最近こういうことに興味があるとか、そういったコミュニケーションは多いです。お互いにインスピレーションを得ながら、その会話からじゃあ今度こういうのを作ったらいいんじゃないかとか、普通の会話の延長線上からものができたりします。
一方で難しいのはデザインについて話し合うとき、親子という関係だからこそ、遠慮なく意見をぶつけ合える場面があります。その分、考えが平行線をたどってしまうことも少なくありません。そんなときは一度立ち止まり、冷静に向き合うようにしています。お互いの意見に耳を傾け、相手の言葉を丁寧に聞くこと。そうすることで、会話の中に新たな着眼点が生まれ、よりよい答えにたどり着けることもあります。

-母と娘でブランドをやっていて反響はありますか? 【下奥(沙)】親子でやっているブランドだというのが一番伝わるのがPOPUP SHOPでの販売でした。店頭に2人で立っている時に「親子でやっているんです」と話しかけるとすごく興味を持ってくださる方がいます。SNSに書いてもどんな人がやっているのかまではなかなか伝わりづらくて。POPUPに出るようになってから対面で色々な人と繋がって、更に別のPOPUPに呼んでいただいたりという感じで。ブランドとしても、親子というのはいいユニークな特徴だと思っています。
お客様とのエピソードと
今後の展望
-お客様と会話して印象的だったことはありますか?
【下奥(悦)】先日行ったPOPUPに海外在住の日本人のお客様がいらして、「チャンキーなデザインなのに着けたとき形がすごく優しくて。重みも程よく、洗練されてるブランドである」とおっしゃっていただいたことがとても印象に残っています。日頃、潜在的に生み出している形に対して、客観的に改めてお客様から言われることで、私たちのデザインのコンセプトやブランドのキャラクターを再認識する機会がよくあります。
※チャンキーとはボリュームがあること

-今後の展望はありますか? 【下奥(悦)】オリジナルでシリーズのアクセサリーを作ることを基本に、インテリアや空間に寄り添うようなプロダクトをそう遠くない将来作っていけたらと考えています。更にPOPUPの際に海外の方にご購入いただくことが多いので、いつか機会があれば海外でも販売していけたらとも考えています。ただ見た目が素敵で使いやすいものだけではなく、作ってるプロセスを感じられ愛着が長く続くものを今後も作っていきたいと思っています。

母:下奥 悦子 さん、娘:下奥 沙希子 さん