いつもの暮らしに いつものうるし
輪島キリモト

日本の数ある伝統工芸の中でも、聞き馴染みのある方も多いであろう漆器。漆器と一言で言っても様々な種類があり、手に取りやすいものから、大変高価なものまであります。そんな漆器の中でも最高峰といわれているのが輪島塗です。輪島塗の中でも異彩を放ち、常に新たな価値を提供しているブランドがあります。それが桐本泰一さんが代表を務める〈輪島キリモト〉。 伝統的な技法を残しつつ、新しい視点で今までになかったような革新的なモノづくりを進めています。世界的にも有名なブランドとのコラボ商品の展開、食器だけでなくインテリア小物、家具、建築内装材の製造までしています。石川県輪島市にある工房に伺い、〈輪島キリモト〉の代表である桐本泰一さん、副代表である桐本順子さんにお話を聞きました。

ー何年創業ですか?

【桐本泰一】1700年代後半に漆器業を営んでいたことは確認できています。1代目から4代目までが漆器業を営んでいて、5代目(桐本泰一さんの祖父)が木地業に転業しました。私の父が6代目、そして私も7代目として継ぎました。もともとは漆器業を営んでいたこともあり、私の代から漆器業と木地業を一貫して行うようになりました。この輪島の町の中で、確認できる範囲で200年以上7代にわたって、木と漆のモノづくりを続けています。

ー従来、木地業と漆器業は分業で行われることが多い中、どうして一貫して行うことになったのですか?

【泰一】私がやりたかったからです。大学1年生のころにデザインという学問に始めてふれて、デザインというものは「今を暮らす人々の生活が気持ちよく、ほっとするような、便利なものを考え出すこと」ということを教わりました。きれいな形・色を作り出すだけがデザインではないということを一番最初に習い、私は自分の生まれ育った輪島で作られている漆器が、まさにこれにあたるのではないかというように思いました。ところが当時、伝統工芸とデザインという分野はほとんど結びついておらず、人の気持ちに沿うモノづくりを大学で学び、それを輪島塗に落とし込むことでより良いものを作りたいとずっと考えていました。そのことを実現するために木地業から漆器業まで一貫して行うようになりました。

ーこの輪島の地でも漆を営む会社はどんどん減少していると伺いました。その中でも〈輪島キリモト〉は残っている。そのことについてどのようなに思いますか?

【泰一】残っているという感覚はないですよ。やめてしまったところはモノを作ることが根本的に好きではなかったかと。仕事に対する想いの違いだと思います。

【桐本順子】時代の流れ、生活様式の変化も、もちろん影響していると思います。30年前には座卓がたくさん売れていた。たった30年でも時代は大きく変化して、今では座卓を使う人はほとんどいない。世の中の動きをキャッチすることが求められますよね。その点では、代表(泰一さん)が常に外に出て、世の中の動きに敏感であることから、対応できているのだと思います。伝統工芸がはまりがちな落とし穴は、自分たちの技術に溺れてしまうことです。自分たちの技術を過信してモノづくりを進めると、世の中のニーズとは合致しないんですよね。お客さんは「技術はすごいけど、いらないよね」となってしまう。そのバランスは非常に気を付けてモノづくりをしています。

ー漆器と聞くと年配の方に好まれるようなイメージですが、〈輪島キリモト〉を購入されているのは20代や30代の方も多いと伺いました。その背景には若い世代を中心に台頭している「いいものを永く使いたい」という価値観があると思います。いいものを永く使うこと、それは言い換えるとサスティナブルといえるかと。〈輪島キリモト〉はサスティナブルな観点で意識していることはありますか?

【泰一】〈輪島キリモト〉は最初から永く使うことを前提にして、モノづくりを進めています。例えば素材はすべて天然のものを使用しています。木や漆も天然のものを使い、自然の中の循環を促進するモノづくりです。天然のものを使っているから燃やしても有害なガスが発生しない。プラスチックでは同じようなことはできないですよね。また、永く使っていただくことをサポートするために商品のお直しも受け付けています。売りつけて終わりではなく、お客様の手元に渡った後のことも考えたモノづくりをしています。

ー長年モノづくりに携わってきて、これから新しく挑戦してみたいことありますか?

【泰一】例えば器に関しては廃番になったものもたくさんあります。店頭からも、工房の中からも、品番を絞ったほうがいいという声があったからです。私としては、減っていくとだんだんと新しいものを作りたくなるんですよ(笑)。そのバランスを保つことは、経営的な判断として必要かもしれないけれど、常に新しいものを追い求めるという気持ちは大切にしています。それが自分のモチベーションの維持になり、工房の活性化にもつながります。同じものをずっと同じように作り続けているだけでは発展がない。器に関しては新しい技法の構想は完成していて、あとはどのように形にするか模索中です。また建築・家具に関しても、リモート化が急速に加速した現代の生活に合うような物の開発を急いでいます。

【順子】挑戦しなくてはならないことは、どのようにして皆さんに漆器というものを知ってもらうかだと思います。商品の開発と並行して、知ってもらう活動をやっていくことが急務であると感じます。私は彼(泰一さん)と結婚しない限り、漆器を知らずに死んでいったと思います。ただ今では、漆器のことを知って得したなと思うので、多くの方に知ってほしいという気持ちでいっぱいです。全くの他人から、友達になり、家族になるような感覚で、ずっと一緒に暮らしていけるそんな器です。最後には体の一部のような感覚。育っていくさまを味わうことのできる器は、やっぱりプラスチックでは表現できなくて、それが漆器ならではの良さかと思います。日々使うものが大切なものであると、生活が豊かになり充実したものになります。それを〈輪島キリモト〉の器を通じて多くの方々に実感していただきたいです。

  • 輪島キリモト

    輪島キリモト

    石川県輪島にて、200年以上「木と漆」の仕事に携わってきた桐本家。 江戸時代後期から明治・大正にかけては輪島漆器製造販売を営み、 昭和の初めに木を刳ることを得意とする「朴木地屋・桐本木工所」に転業。 六代目・俊兵衛は、特殊漆器木地をはじめ、家具全般をも手掛ける設備を整えました。 七代目・泰一は、大学でプロダクトデザインを専攻、企業でオフィスプランニングに携わった後、輪島に帰郷。 朴木地業の弟子修行を経て、漆器造形デザイン提案、器や家具、建築内装などの創作をはじめました。 平成27年 商号を「輪島キリモト」とし、木地業を生業にしながら、多くの力ある職人さん達と一緒に、 木工製品や漆の器、小物、家具、建築内装材に至るまで、木と漆が今に暮らしにとけ込むようなモノ作りに 挑戦し続けています。

Text & Photo:
宮﨑涼司

人一倍、服が好きなCRAHUGのジャーナル担当。給料のほとんどをファッションへ投資する。好きなメディアは「AWW MAGAZINE」と「NEUT MAGAZINE」

Date: 2021.10.04

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