CRAHUGプロジェクトの中でも珍しい”廃校の工場”。初めはそのビジュアルゆえに惹かれた筆者ですが、そこには単に100%の自然由来のコスメでは終わらせない奥の深いブランドストーリーとものづくりがありました。自分たちのブランドのためだけではなく、地元の農業や観光といった地域創生も志しているコスメブランド〈BOTANICANON〉の代表取締役の黒木靖之さんにインタビューを行いました。

ご自身の娘さんのために、と始めたブランド。SDGsのために始めたわけではなかった。

ー〈BOTANICANON〉を立ち上げたきっかけを教えてください。

【黒木】元々輸入化粧品を取り扱う会社で働いてて、ヨーロッパの化粧品の下請け工場に行く機会がありました。その当時は全然興味なかったんです。娘がアトピーになってから心を入れ替えたというか…大体この業界の方ってご自身が病気とかアトピーかとか、近しい人が同じような悩みを抱えているとか、そういう人が多いんですよ。強い動機がないと出来ないです。面倒臭い業界なんで。根気がいるんですよ。

ーなぜ大阪で働いていたところ、ここ地元(鹿児島県大隅半島)でブランドを立ち上げたんですか?

【黒木】こういう仕事をしていると自然の方に戻らないとできないというか、本質の方に。ラッキーなことに自分の地元が自然豊富な場所だったんで特徴を生かすことになりました。この鹿児島県大隅半島は温帯と熱帯の気候が混在しているから特有の固有種があるんですよ。とても珍しい場所。たまたまそれが自分の生まれ育った場所でした。

ー〈BOTANICANON〉のブランド名の由来は何ですか?

【黒木】デザイナーさんが作った名前で、”ボタニカル”と”カノン”の造語です。香りが幾重にも押し寄せてくるとか、植物のエキスが幾重にも押し寄せてくる様を描いているもの。いい匂いの前に”素材の香り”を重視しています。いい匂いにすることは簡単、それなりにいい匂いはできる。でも、我々の本質は素材を生かすところにあるので、どうしてもの場合しか香りは付けません。

校内中が植物の香りに包まれています。

ー廃校を活用するという斬新なアイデア。どのように廃校を工場にしたのですか?

【黒木】町の方に住民説明会をして、こういうのを作りますって紹介して…でないと勝手に行政だけで決めてしまうと町の人からクレームが来たりするので。初めは4回くらい説明会を開きました。やっぱりすぐ前が海でしょ?だから汚染水が流れるとかの懸念がありました。そういった不安を解消するためにも、自然由来100%の石鹸とかを作っています。ボタニカルファクトリーができる前に自分の小さい工場が近くにあって、実績があったこと。そして、地元の出身だったんで割とスムーズに進めることできました。これがいきなり貸してって外部から来たらもうみんなくじけると思う(笑)自分の場合、地元の植物とか、学校で化粧品作るって面白いと思ってブランド作りの一環としてやっているんですけど、普通に考えたら使い勝手悪いし、物流も良くないし。その当時ブランディングとか考えてなかったけど、「9校(廃校)余ってるし色々使って!」って言われてたまたまやったら、「それってSDGsじゃないですか?」って言われ出して…いや、別にうちSDGsどうこうで始めたわけじゃないし…元々、(前の小さい工場の時から)地元の農作物を使ったりやってたのでSDGsに関わることはしていました。しかし、後から自分がしていたことがSDGsだったと気づかされました。

化粧品だけではなく、素材の知識も豊富な黒木さん。学校でのインタビューはまさに”コスメの先生”のようです。

教室の中は、しっかり化粧品工場になっています。

肌を選ぶ商品。試行錯誤の連続。

ーどのくらいの期間で、どのように商品開発しますか?

【黒木】原料をそのまま商品化するもの(入浴剤など)は1,2カ月。長い物は、特にメイク落としとかは、2年くらいかけて一回出しては引くの繰り返しでした。完成形になるまで、成分は変わっていませんが、迷惑をかけない程度にマイナーチェンジは3,4回行いました。化粧水とかは合う合わないがあるので全員の意見で行くというよりはすごく良い!という人が何人かいる。そして合わないという人がいたらそれをどう考えるかを意識しています。ナチュラルのものって意外と刺激が強いんですよ。人工の、いわゆるケミカルなものほど付けた際のヒリつきなど一次刺激がない。でも、こういう自然由来の石鹸ほど目に入るとピりッとするけど、すぐ不活性化して安全。人工なものは目に入っても分からないから逆に滞留してしまうんです。でも一次刺激は基本ゼロ。それをどう捉えるかなんですね。化粧水なんかも薬効は強いけど、草負けみたいに全然ダメな人もいるし、そこに関しては合う合わないがあります。合わなかったらごめんなさい、合えばすごくいいよ!という感じです。全部オールマイティでないし、お客様の肌を選びます。そこが難しいところでもあって、面白いところでもあります。

ー今後に向けて挑戦されていることを教えてください。

【黒木】まず、新工場で染毛料、ヘナを製造することです。トータルビューティーをトータルビューティーアンドヘルスで考えると、髪の毛の先からつま先までという考えを持っとかないといけないと思っています。あとは農作物の買い付けです。例えばパッションフルーツは、この町内で15tくらい出る中で10%、1.5tくらいが廃棄されます。そのうち1tくらいをうちで買っています。同様にテッカやタンカンも買い付けをしています。挑戦という意味でいえばその辺りを「どこまで買い支えられるか?」というのをしています。できれば、農作物の廃棄物を0にしたい。でもこれは理想論なので…少なくとも農家さんのモチベーションの上がる活動として、こういった化粧水やオイルができて、直接的な収入に繋がらなくても作る喜びができるのが大事かなと思って挑戦しています。

自社のためだけでなく、自身の地元へもブランドを通して貢献できるように化粧品作りをされている黒木社長。すべてが100%ではない中で、何を届けるのか。そこには挑戦し続けるトップの姿がなければたどり着くことができないものが多くあると思いました。

左上:町内で採られるタンカン、右上:ホーリーバジル、左下:佐田旧薬園で見られる”月桃(ゲットウ)、右下:パッションフルーツ

東京から片道4時間。自然の美しさを”BOTANICANON”を通じて知った取材でした。

  • 株式会社ボタニカルファクトリー

    株式会社ボタニカルファクトリー

    本島最南端の大隅半島にある鹿児島県肝属郡(きもつきぐん)南大隅町は、亜熱帯気候と温帯気候が混在し、風光明媚なところです。その町にある、旧「登尾小学校」の一部を製造工場としてリノベーションし、「地産化化粧品」を目指し2016年にスタートしました。ハーブウォーター(蒸留水)やアロマオイル、植物エキスの抽出など、原料づくりから製品までを一貫生産しております。お肌にも、環境にもやさしい「サスティナブルコスメの追求」が商品づくりの基本です

Text & Photo:
上野結佳

若手メンバーのお母さん的存在。学生時代にニューヨークでの留学経験を持つCRAHUGのSNS担当。週末は夜な夜な料理に勤しむ。

Date: 2021.08.23

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